12ヶ月の挑戦

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新たな挑戦を行うSpaceX

2015年。SpaceX社は独自技術で開発されたFalcon9(ファルコン・ナイン)ロケットによるLow Earth Orbit(地球低軌道)への機材や国際スペースステーションへの補給任務も安定した成功を収めていた。同時にSpaceX社は打ち上げたロケットを地上へと着陸させる、前人未到の領域への挑戦を開始をしていた。

2015年1月、国際スペースステーションへの補給ミッション「CRS5」で無人自動回収用のロボット船にて初着陸試験が行われ、失敗。これはロケットの第一段階が発射後にくるりとUターンを行い、自力で着陸地点まで戻ってくるだけでなく、無人のロボット船の上に着陸する、という野心的な実験だったが、着地地点を外して、海に飛び込んでしまった。

2015年4月、国際スペースステーションへの補給ミッション「CRS6」で再度無人自動回収用のロボット船にて着陸試験が行われ、失敗。飛行甲板に着地したものの、倒れて爆発した。

公開された上の動画を見て、「おしい!」と思ったのは私だけでは無いだろう。補給任務に成功した上でさらに厳しい目標に挑むSpaceXは成功を掴みかけているように見えていた。

世界への挑戦状

2015年6月15日、三度目の着陸試験となる「CRS7」ミッションが迫る中、SpaceXが驚きの発表を行った。(以下筆者による和訳)

2013年に新しい地上用の高速移動機関ハイパーループ(英語) を提案してから、コンセプトは多くの方の興味と関心を得ました。喜ばしいことにこのコンセプトの開発を行うと選んだ企業も数社います。
SpaceXとイーロン・マスク氏はハイパーループの開発企業と関係を結んでいません。直接商業用のハイパーループを開発を行ってはいませんが、我々は実働するハイパーループのプロトタイプの開発を促進させたいと考えています。

このため、SpaceXは大学や独立した工学開発チームへ向けたオープンコンペを発表します。チームの皆様にベストなハイパーループのポッドをデザイン・製造させてもらいます。このコンペを主催するためにはカルフォルニア州ホーソーン市のSpaceX本社敷地に1マイル(1600m)のテスト軌道を建設します。このテスト用の設備を使い、2016年夏に人間サイズのポッドを利用した実験を行うことができます。この実験を通して得た知見もまた、オープンソースとして公開され続けます。

Break a pod!

Hyperloopの商業開発を進めている事業は数社あるが、思ったほど早く開発が進まなかったのだろうか。SpaceXは世界中のハイパーループのファンの熱意と努力が収束するイベントを発表したのだ。しかも、たった一年たらずの開発期間でのコンペ。厳しい条件だ。

その厳しい条件であっても世界から1000位上のチームが名乗り上げ、応募した。机上の空論と嘲笑を浴びているハイパーループが再び現実性を獲得し始めた。試験場ができたら、後は自分たちで実現するだけだと。

SpaceXは明らかに夢物語と言われていた再利用型ロケットを実現しかけている。無理だ、非現実的だ、と言われていたFalconロケットの成功の積み重ねはエールとなっていた。同じようにありえないと謗られていた「兄弟」であるハイパーループが可能である、と主張するかのように。

失敗…から学ぶ

2015年6月28日、「CRS7」が宇宙に向かって飛び立ったが補給物資は国際スペースステーションへとたどり着けなかった。三度目の着陸試験となるべきフライトでFalconロケットは発射139秒後に事故が発生、内部破損による障害から空中で分解、全損。初の全損事故であった。

SpaceXはすぐさまに事故の分析結果とその対策を発表した。

この姿勢が示すメッセージは明確だ。学んだ事があった。次回の改善点は見つかった。

失敗は終わりではないことを行動で示すSpaceXはハイパーループのコンペ参加者へ少なからずの影響を与えたように思える。成功することが唯一の目的ではない。次につなげる為の情報を生む事が目的だと。

2015年8月29日、コンペの技術規定が発表。ここで各チームは作業を始める事となった。

2015年10月20日に技術規定が更新。提出締め切りも2016年1月13日と決定。

10月20から1月13までの実質2ヶ月で各チームはデザインをまとめることとなった。ハイパーループの速度を紹介するときにすこし触れたが、この2ヶ月は非常に短い時間だ。リニア新幹線はすでに開発開始から運行までに45年以上。787ドリームライナーも既存の飛行機を元に開発していても10年近い期間を必要としている。成功例が無い中、全く新しい物を作るというのはドリームライナーよりリニア新幹線に近い。45年、人の人生とたった2ヶ月。デザインの提案のみとはいえ、どれだけ短い時間であるか、愕然としてしまう。

2015年11月にデザイン提案ブリーフィングが開催され、当初の1000を超えるチームは120あまりと大きく数を減らした。約10%のチームが第一次選考を勝ち残るデザインを作成できた、ということだ。逆に120チームがたった2ヶ月でそれだけの物を作れたのか。驚くほどの成果だ。

そして、2016年1月の末にはアメリカ、テキサス州のテキサスA&M大学で世界からチームが集まり、SpaceXのジャッジに向けたプレゼンを行うことになる。

このコンペに全世界でどれだけのコーヒー、お茶とエネルギードリンクが消費され、何日分の睡眠時間が削られたのか。答えはろくでもない数字でしかないだろう。

なぜ、このような非常識に短いスケジュールなのか。もっと時間をかけて良い物を作るべきではないのか?答えはSpaceXとイーロン・マスクの行動にあるのではないだろうか。

誰も作ったことが無いものに正解はまだない。ひたすらアイデアを出し合って、問題を潰す必要がある。本来ならばリニア新幹線のように十年単位での開発を1000チームで分けて、高速に、並列化している。まさにインターネット世代ならではでのアプローチとなっているのではないだろうか。残念ながら、イーロン・マスクの真意を確認することはできない。

2015年12月22日、Falcon9のv1.1FullThrust(フルスラスト)の初飛行となった。Falcon9の改善点を集約して性能向上を行った新型ロケットは増した推力をもって、単独で地球周回軌道へと乗れる。名前から、「これが元から目標としていた性能」と読み取れる。初の全損事故からたった6ヶ月で新型ロケットが発射台へと乗ったのだ。「Falcon 9 フライト20」と味気ない名前のミッションは無事通信衛星11基を打ち上げた。打ち上げた後のFalcon第一ステージはUターンを行い、空から轟音と共に戻ってきた。前2回の飛行と異なり、今回は海で船での回収ではなく、地上の着地場が目標だ。そしてついに、世界で初めてロケットが無事に地球に戻ってきたのだ。「The Falcon has landed.」ファルコンは着地した。

どうあれ、SpaceXは姿勢の成果を見せた。失敗は成功への道標となる。ハイパーループも同じようにに多くの失敗を礎にするだろう。

イーロンの真意はどうあれ、このようにして2015は最高のクリスマスプレゼントと共に幕を引いた。短い1年でこれだけの成果を出せるのだ。開発のペースの加速を行う為というコンペもせっかちな彼からすると当然なのだろうか。

そして次の一年が始まる。

文字通り不眠不休の努力の結果がテキサスの広大な大学キャンパスの角にあるイベント会場に集結することとなった。

次:勝っても負けても笑顔のコンペ→

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